「ロス・カプリチョス」とはスペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤの銅版画集の名前です。今回の作品展タイトルはそこからオマージュとしてつけました。日本語で気まぐれを意味しますが”狂騒曲”とも訳されます。この作品集は彼の生きた時代の様々な人間の姿が描かれています。
その時代のスペインは混沌としていました。ナポレオン侵攻や内戦などがあり人々は恐怖、猜疑心、偽善や欲望に翻弄され支配されました。それは当時の人間観察記録だったのだろうと思います。それから200年以上経った今、私は似たような「空気」の真っ只中にいるような気がしてなりません。
私は「人間とは何か」という疑問をテーマに彫刻を作っています。私が彫刻で作る”生き物”は全て現代に生きる人間をモデルとしています。モデルというのは姿形を模倣するのではなく、人間の行動やそれを動機付ける内面をモデルにしています。それは普通の女の子や天使だったりしますが、時にモンスターや悪魔、死神だったりもします。様々な側面を持っているのが人間です。人は他人に勇気づけられたりしますが、時に失望させられる事もあります。
そんな彼らの観察日記として作品を楽しんでいただけたら嬉しいです。
矢部裕輔
開催に寄せて
矢部さんの作品を最初に見たのは10年ほど前、「ダンダン」という若手の現代美術家のグループ展でした。細い木の棒と、糸、ボール紙などで目や人形を組み合わせた作品はフラジルで未完成なのに独特の魅力があり今も忘れられない印象に残るものでした。その後、木彫の作品がメインとなり、2016年の末に機が熟し当方のギャラリーで個展をしてもらうことになりました。まだいくつかの作風が共存しているような展覧会でしたが、もう少しソウルフルな面を強く出せば面白くなりそうな予感がしていました。その直後、今の作風が出現。年明けにはNYのギャラリーに出品が決まり、その後は東海岸から西海岸へ、ヨーロッパへと怒涛の勢いで発表、現在に至ります。一人の作家の誕生に居合わせることができたというギャラリストとしては大変幸せな経験でした。東京でもフェアーなどで矢部作品を並べるとアートコレクタ―も、全く普段はアートに縁のない人も同じように惹きつけられ集まり手に取り持って帰られます。不思議に思えるほどの現象です。多くの作品を見てきて、この頃、「良い作品とは、その作品を見ていると目の前にその作家がドーンと立ち現れてくるような作品ではないか」と思っています。矢部作品を前にするとまさに矢部裕輔そのものの存在を実感します。怒りとアイロニーと優しさとを湛えた目でこちらを射貫くように見つめながらそこにいるのです。
t.gallery代表 御手洗照子
展覧会
矢部裕輔展 ロス・カプリチョス 狂騒曲
2020年11月19日(木) - 2020年11月30日(月)
2020年11月19日(木) – 2020年11月30日(月)
19日-24日 12時-18時
25日-30日 予約制
作家在廊日 19日
矢部裕輔の2年ぶり3回目の個展です。作者の敬愛するスペインの画家ゴヤの銅版画集へのオマージュ。200年以上経った今の時代に同じ空気を感じた人間観察日記です。